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貴志康一(1909-37):ヴァイオリン協奏曲 

貴志康一のヴァイオリン協奏曲、ピアノリダクション版制作を行いました。

貴志康一は、戦前のヴァイオリニスト・作曲家です。指揮者としても活動されていたようで、ベルリン・フィルを最初に指揮した日本人とも言われています。30に満たない短い生涯の中で、これだけ幅広い充実した活動をされていたというのは、驚きですね。

今回のヴァイオリン協奏曲は、日本的な音階・和声が印象的で、演奏時間訳40分の大曲です。ヴァイオリン独奏パートはまさに超絶技巧の連続で、かなり聴きごたえがあります。そして今回制作したピアノパートも、技術的に大変充実したものになっています。自分もちょっと頑張って練習しないと、ちゃんと弾けなそうです。。。

因みに貴志康一は、ヴァイオリン協奏曲の他に、歌曲も作曲されています。歌曲もいくつか編曲させて頂いたことがありますが、日本人には親しみやすい和声・旋律・歌詞と高度な技巧が融合した、大変興味深い作風だと思いました。私は編曲を依頼されて知ったのですが、近年、演奏される機会が増えてきているようです。

下記に各種リンクをはっておきます。

 

 

 

メンデルスゾーン《讃歌》

振り返ってみると、TOEICネタとか卓球ネタとか、音楽研究室らしからぬことばかり書いていたので、たまには音楽のことを書きたいと思います。

久々に楽曲解説を担当させて頂きました。大阪シンフォニッククァイアさんの演奏会で演奏された、メンデルスゾーンの《讃歌》です。この曲、《交響曲第2番》として知られ、交響曲の1曲とされているのですが、メンデルスゾーンの他の4曲とは異なり、通常の4楽章構成ではなく、10の楽曲からなる、声楽を伴う交響カンタータです。第1曲が3つの楽章からなる小交響曲、続く第2-10曲がカンタータという異例の構成によるこの曲は、グーテンベルクの印刷技術発明400年を記念する記念祭のため、”書籍の街” ライプツィヒから作品を委嘱されたメンデルスゾーンにより作曲されました。

管弦楽と声楽を融合するというアイデアは、恐らくベートーヴェンの《第九》からインスピレーションを得たものと思われます。作曲家のみならず高名な指揮者でもあったメンデルスゾーンは、当時難解な”現代曲”として知られていた《第九》を指揮し、この曲の演奏史に重要な功績を残しています。さらにはピアノでも演奏し、ヴァイオリンで演奏に参加したこともあるというくらいですから、当時誰よりも《第九》を理解していたといえるでしょう。とはいえ、最終楽章に声楽をもってくるというのではなく、10部分からなるカンタータ的な構成は、メンデルスゾーンならではのものです。

因みに「交響曲」というジャンル分けはメンデルスゾーン自身によるものではなく、出版上の都合だとされています。第2番には元々《イタリア》が割り当てられる予定だったそうなのですが、作品に納得いかなかったメンデルスゾーンは《イタリア》の改訂を行っており、ついには生前には出版しませんでした。メンデルスゾーン最後の交響曲は《スコットランド》で、生前、1842年に「第3番」として出版されています。メンデルスゾーンの死後、全集が出版される際、出版の事情で、元々《イタリア》が割り当てられる予定だった”空白”の「第2番」に、「讃歌」が割り当てられたそうです。

メンデルスゾーンの交響曲は、番号は出版順によるもので、作曲順は一致せず、1(1824)→5《宗教改革》(1830)→4《イタリア》(1833)→2《讃歌》(1840)→3《スコットランド》(1842)となります。《讃歌》も初演後に大幅な改訂を加えていますし、このあたり、自分の作品に厳しくしばしば改訂を加えたメンデルスゾーンならではの事情かと思います。

交響曲、カンタータ、詩篇、礼拝の形式等、作曲家であると同時に敬虔なカトリック信者であったメンデルスゾーンならではの要素が盛り込まれた、「讃歌」の名にふさわしいスケールの大きな感動的な作品です。

録音としては、アバド指揮/ロンドン交響楽団や、ヤニク・ネゼ=セガン指揮/ヨーロッパ室内管弦楽団等、Apple Musicで色々聴けます。それぞれにテンポ感が微妙に異なって、面白いのですが、とりわけ興味深いのは、リッカルド・シャイー指揮/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によるものです。Apple Musicのサブスクの中には入っていなかったのですが、レンタル落ちの中古を入手できました。通常《讃歌》は、作曲者自身が改訂を加えた、「改訂版」が演奏されるのですが、シャイー版は初版によるもので、いくつかのレチタティーヴォが無い他、メロディーも改訂版とは結構違っており、聴き比べると面白いです。1840年6月のグーテンベルク記念祭での初演では、恐らくこれに近い音楽が響き渡っていたのだろうと想像しながら聴きました。