テキスト

アンドラーシュ・シフ@Proms2017

ハンガリーの大ピアニスト・アンドラーシュ・シフが2017年のプロムス(イギリスのクラシック音楽祭)でバッハの平均律クラヴィーア曲集を弾いている映像がYou Tubeにあった。

平均律というと、ピアノ上級者あるいはそれを目指す人が絶対弾かなければならない曲集で、私も基礎練習がてらチョイスしてよく弾いている。

歴史的傑作だけあり、録音は数が多いのだが、その中でも、シフの平均律は特に素晴らしいものの1つ。複数の声部の歌い分け方、軽やかなトーンが魅力で、学生時代にお手本としてよく聴いてきた。

しかし、平均律が素晴らしい作品とはいえ、88鍵のモダンピアノが無い時代につくられた音楽であり、鍵盤の端から端までフルに使うわけではない。ショパンやラフマニノフなどに比べて演奏効果が上がりやすいかというと少し微妙で、コンクール課題曲としては定番でも、発表会やコンサートで特に弾かれるかというと?なところもある。いや、弾かれることはあるのだが、コンサートの始めに数曲、ということが多い気がする。平均律全曲などというのは、相当腕に自信のある人でないと無理だろう。他に近年平均律全曲コンサートをやった人といって思い浮かぶのは、バレンボイム。やはり超トップクラス。。。

さて、巨匠の2017年の演奏だが、キャパ8000の大ホールで絶妙な美しい音を響かせ、素晴らしい演奏を聴かせている。まあ、映像はマイクのクリア音が聴こえているわけで、大ホールの隅でどのような響きだったのかは興味があるところだが。。。自分が弾くと、せっかくチェンバロではなくモダンピアノで弾くのだからと思い、ペダルや強弱で色々表現をつけたくなりがちなのだが、このお方の演奏は割とあっさり、というか抑制された表現で音楽が進んでいく。それでいて、どのフレーズにも自然な流れのなかに表情があり、さすが巨匠。料理のごとく、下手にこってり味付けするより、素材の味を活かすのが一番か。

ところで、バッハ演奏のもう1人の巨人・グレン・グールドはまた全然違う平均律を聴かせる。どんな解釈も成り立ってしまうのがバッハの懐の深さでもある。

自分で日々弾いていると、何というか、「こんなもんか」という感じで解釈が固まってきてしまうのだが、たまに名演を聴くと、傑作の無限の可能性を教わるようで、為になる。