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ショパンの作品における「楽譜」について

クラシックの作品は、楽譜を読んで学ぶことが基本なので、どうしても自分が使用する楽譜の情報を唯一の正しいものとして認識してしまいがちですが、実際には、楽譜の意味合いというのは、時代、作曲家、編成、ジャンル等によって、異なってきます。

バッハの時代には、楽譜はメモ程度のものであり、奏者の即興にかなりの部分が委ねられていたそうです。一方マーラーの交響曲ともなると、びっしり厳密に書かれた楽譜を、その通りに演奏することが前提となります。

では、ショパンはというと、かなり強弱記号を細かく書き込んでいます。それは演奏する際に大変有益な情報で、原則楽譜をしっかり読み込んで演奏するということになるでしょう。しかしショパン自身がある1つの楽譜を唯一絶対のものと考えていたかというとそうでもないらしく、生徒に自作品を教える際は、異なる可能性を提示していたようです。また海賊版防止のため、各国で同時に楽譜を出版し、これがいくつかの異稿(ヴァリアント)を生むこととなりました。今の時代のように、データのメールでのやり取りとか出来ませんので、筆写の過程で色々なことが起きたのでしょう。

近年出版された、ポーランドナショナルエディション(エキエル版)は、今まで親しまれてきた楽譜とはかなり異なる部分もあり、賛否両論ありますが、研究成果に基づいてヴァリアントを複数示しているという点で、優れているといえます。

試しにノクターン集を購入してみましたが、特に有名なノクターン作品9-2が面白いです。この曲は簡単な伴奏の上に、優美な旋律が歌われ、装飾的に変奏されていくのですが、その装飾が今まで私たちが聴きなれたものとは別のバージョンが、複数示されています。そもそも、この曲の装飾って、無限に可能性があると思うんですね。とするなら、1つの楽譜のバージョンを1音も変えずに何百回も演奏するのって、ショパンが聴いたら「違うだろ!」って言われてしまうんじゃないですかね。変奏を自由に行う柔軟な感性と、即興力は持ち合わせていたいな、と思うところです。もちろん、どれほど変奏・即興するかは曲の様式によるのであって、流石に、英雄ポロネーズみたいな複雑な作品で即興というのは難しいですが。

その他、私の愛奏曲であるノクターン作品48-1も、音符に関しては今までの楽譜とほとんど違いはありませんが、強弱記号がフォルテとピアノが逆になっていたり、なかなか興味深いです。てなわけで、ショパンに興味のある方には、パデレフスキ版や日本の各出版社以外に、持っていると色々な演奏の可能性が見えるかもしれません。ただ1点、お値段が国内版と比較してお値段が張るのが、ちょっと難点です。

ショパン : ノクターン集/エキエル編(英語版)/ポーランド音楽出版社ピアノ・ソロ

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